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古事記伝
二十八
大氷雨おほさめ、遠飛鳥宮段〈◯允恭〉にも、零大氷雨とあり、〈◯中略〉書紀に大雨、甚雨、淫雨など、みなひさめと訓り、〈推古紀、天智紀などに、火雨とあるは、もと大雨とありけむお、後人ひさめとある訓お心得誤りて、大字おさかしらに火に攺めつるなるべし、和名抄に引る私記なるも同じ、又今世俗に、火の雨と雲ことのあるも氷の雨なり、〉抑比佐米とは、もと氷(ひ)の降るお雲て、天武紀に氷零大如桃子とある是なり、〈今世に閉宇と雲物にて、雹字これなり、閉宇と雲は、此字音おはうと呼しが、訛れるにやあらむ、さて和名抄にも、書紀の訓にも、雹はあられとあり、阿良礼は霰なるお、古は雹おも共に阿良礼とも雲しなるべし、雹字、又右の氷零など、ひさめとも、ひふるとも訓べし、〉然るお其より転りて、尋常の雨の甚く零るおも雲りと見えて、彼遠飛鳥宮段なる氷雨は、歌には阿米とよめり、〈若雹ならむには、阿米とはよむまじきにや、但阿米と雲は、此類の総名にて、此は雹ながら、歌には阿米とよめるにもあるべし、〉又和名抄に、沛おも比左女と注し、書紀に大雨甚雨などお、然訓るも是なり、かくて此なるは、打惑とあるお以て見れば雹(ひふり)なり、書紀にも零氷とあり、