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源氏物語
二十朝顔
冬の夜のすめる月に、雪のひかりあひたる空こそ、あやしう色なき物の身にしみて、此世のほかのことまで思ひながされ、おもしろさも哀さも残らぬおりなれ、すさまじきためしにいひおきけん、人の心あさヽよとて、みすまきあげさせ給、月はくまなくさし出て、ひとつ色にみえわたされたるに、しほれたる前栽のかげこヽろぐるしう、やり水もいといたうむせびて、池の氷もえもいはずすごきに、わらはべおろして、雪まろばしせさせ給、おかしげなるすがたかしらつきども、月にはへておほきやかになれたるが、さま〴〵のあこめみだれき、おびしどけなきとのいすがたなまめいたるに、こよなうあまれるかみのすえ、しろき庭には、ましてもてはやしたる、いとけざやかなり、ちいさきはわらはげて、よろこびはしるに、あふぎなどもおとして、うちとけがほおかしげなり、いとおほうまろばさむとふくつけがれど、えもおしうごかさでわぶめり、