[p.0212]
雲萍雑志

東野州佐川田喜六がもとへ、今日の御書翰に、雪のことなきは、近ごろ遺恨に候とある返事に、 眺常ならず候へども、昌俊事は、月花おのみ格別にめで侍れど、雪はさほどにうかれ不申候、人も乏しきものは寒がり、雪のふかき国にては、吹雪にしまかれなどして、こヾえ死ぬるもの多しとあれば、悦びおどるほどにはなられず候、東路の旅に、由井といへるすくに宿りし夜、はじめて雪の降ければよめる、
ながめにはあかぬ箱根のふたご山誰がこす嶺のみ雪なるらん