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北越雪譜
初編上
雪の堆量 余〈◯鈴木牧之〉が隣宿六日町の俳友天吉老人の話に、妻有庄にあそびし頃聞しに、千隈川の辺の雅人、初雪より〈天保五年おいふ〉十二月廿五日までの間、雪の下る毎に用意したる所の雪お、尺おもつて量りしに、雪の高さ十八丈ありしといへりとぞ、此話雪国の人すら信じがたくおもへども、つら〳〵思量に、十月の初雪より十二月廿五日まで、およその日数八十日の間に、五尺づヽの雪ならば、廿四丈にいたるべし、随て下ば随て掃ふ処は、積て見る事なし、又地にあれば減もする也、かれおもつて是おおもへば、我国〈◯越後〉の深山幽谷、雪の深事はかりしるべからず、天保五年は我国近年の大雪なりしゆえ、右の話誣ふべからず、