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北越雪譜
初編上
雪竿 高田御城大手先の広場に、木お方に削り尺お記して建給ふ、是お雪竿といふ、長一丈也、雪の深浅公税に係るお以てなるべし、高田の俳友楓石子よりの書翰に、〈天保五年の仲冬〉雪竿お見れば、当地の雪、此節一丈に余れりといひ来れり、雪竿といへば越後の事として、俳句にも見えたれど、此国に於て高田の外無用の雪竿お建る処、昔はしらず今はなし、風雅おもつて我国に遊ぶ人、雪中お避て三夏の頃此地お踏ゆえ、越路の雪おしらず、然るに越路の雪お、言の葉に作意(つくる)ゆえたがふ事ありて、我国〈◯越後〉の心には笑ふべきが多し、