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続世継
四伏見の雪のあした
大殿〈◯藤原師実〉の伏見へおはしましたりけるも、すヾろなる所へはおはしますまじきに、雪のふりたりけるつとめて、俊綱がいたく伏みふけらかすに、にはかにゆきてみんとて、はりまのかみもろのぶといふ人ばかり御ともにて、にはかにわたらせ給たりければ、おもひもよらぬことにて、かどおたヽきけれど、むごにあけざりければ、人々いかにとおもひけり、かばかりの雪のあしたに、さらぬ人の家ならんにてだに、かやうのおりふしなどは、そのよういあるべきに、いはんや殿のわたり給へるに、かた〴〵おもはずに思へるに、あけたるものに、おそくあけたるよし、かふづありければ、雪おふみ侍らじとて、山おめぐり侍と申ければ、もとよりあけまうけ、又とりあへずいそぎあけたらんよりも、ねんにけふあるよし、人々いひけるとか、修理のかみ〈◯俊綱〉さはぎいで、雪御らんじて、御ものがたりなどせさせ給ほどに、もろのぶかくわたらせ給たるに、いでしかるべきあるじなど、つかまつれと、もよおしければ、俊綱いまにへどのまいり侍なんと申ければ、人にもしられで、わたらせ給たれば、にへ殿まいることあるまじ、日もやうやうたけて、いかでか、御まうけなくてあらんといひければ、殿わらはせ給て、たヾせめよなどおほせられけるほどに、いへのつかさなるあきまさといひて、光俊、有重などいふ学生の親なりし男、けしききこえければ、修理のかみたちいでヽかへりまいりて、あるじして、きこしめさすべきやうはべらざる也、御だいなどのあたらしきも、かく御らんずる、山のあなたのくらにおきこめて侍れば、びんなくとりいづべきやうはべらず、あらはにはべるは、みな人のもちひたるよし申ければ、なにのはヾかりかあらん、たヾとりいだせとおほせられければ、さはとてたちいでヽ、とりいだされけるに、色々のかりさうぞくしたる伏みさぶらひ十人、いろ〳〵のあこめに、いひしらぬそめまぜしたる、かたびらくヽりかけとぢなどしたるさうし十人ひきつれて、くらのかぎもちたるおのこ、さきにたちてわたるほどに、ゆきにはへて、わざとかねてしたるやうなりけり、さきにあとふみつけたるお、しりにつヾきたるおとこおんな、おなじあとおふみてゆきけり、かへさには御だい、たかつき、しろがねのてうしなど、ひとつづヽさげてもちたるは、このたびはしりにたちてかへりぬ、かヽるほどに、かんだちめ殿上人蔵人所の家司職事御随身など、さまざまにまいりこみたりけるに、このさとかのさと、所々にいひしらぬそなへども、めもあやなりけり、もろのぶ、いかにかくはにはかにせられ侍ぞ、かねて夢などみ侍けるかなど、たはぶれ申ければ、俊綱の君は、いかでかヽる山ざとに、かやうのこと侍らん、よういなくては侍べきなどぞ申されける、