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当世武野俗談
不角千翁妻妙閑
不角千翁と雲しは俳諧の達人なり、〈◯中略〉此千翁が女房は至て発明にして、風雅の道は園女秋色にも越たり、ある冬の夜、雪いと白ふ降りければ、近辺の雅人来り、千翁おさそひ雪見に出んと有し時、不角も同じく同道し出んとする時、独の小野郎お供につれて出んと、はやく支度いたせ、らちあかぬなど、千翁、野郎おしかりければ、其女房不角に向ひ、何れも風雅の面々は、さこそ雪の面白かるべき、此奴僕何の面白き事有ていさむべきや、一とせ安藤冠里公の、あれも人の子なりといふ初雪の句もあり、陶淵明が薪水の労お助け、是も又人の子なりとの仁心の辞お思ひ賜へ、手前の子ならば供には連賜ふまじと雲ければ、不角いかにも其方が仁心感じ入たり、則其一言発句になりたり、 我子なら供には連じ夜の雪、是は我が誤りたりとて閉口してけるとなり、今女房尼に成て、妙閑といふなり、