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雪華図説
夫水の其形お変換する、雪お以て最奇なりとす、海陸の気、上騰して雲おなす、雲冷際に臻れば、其温お失し変じて雨となる、気中に在るお以て、一々皆円なり、初円は至微至細、漸お以て併合し、終に重体点滴の質お致す、冬時気升て同雲お成し、冷に遭て即亦円点お成す、冷侵の甚しき、一々凝冴し、下零するも其併合お得ず、聊相依附して大円お成さんと欲し、六お以て一お囲み、妥々翩々頓に天地の観お異にす、故に寒甚ければ、粒珠となり、寒浅ければ花粉おなす、花粉の中寒甚ければ片愈美なり、凡そ物方体は必八お以て一お囲み、円体は六お以て一お囲むこと、定理中の定数誣べからず、雪花の六出なるゆへんも亦これのみ、〈立春後の雪、みな五出の説あれども取り難し、〉水已に雪に変ずれば、重体忽ち二十四分お減じ、軽漂橋の如く、花形万端都て六出、星辰の芒角の如く、其状整正、其質潔瑩、実に賞するに堪たり、其精白にして他色お雑へざるは、光線の尽く反射お致するによる、雪もし黒色ならば四望幽暗、凱堪ふべけんや、〈西土雪花お験視するの法、雪ならんとするの天、預め先黒色の八糸緞お気中に晒し、冷ならしめ、雪片の降るに当て之お承く、肉眼も視るべく、鏡お把て之お照せば更に燦たり、看るの際気息お避け、手温お防ぎ繊鑷お以て之お箝提すと、余文化年間より雪下の時毎に、黒色の髹器に承て之お審視し以てこの図お作る、〉雪其形質お美にするのみならんや、功用また少からず、〈◯中略〉 壬辰〈◯天保三年〉夏六月 許鹿 源利位述