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伊勢物語

むかしみなせにかよひ給ひし、これたかのみこ、れいのかりしにおはします、ともにむまのかみなる翁〈◯在原業平〉つかうまつれり、〈◯中略〉かくしつヽまうでつかうまつりけるお、思ひの外に御ぐしおろさせ給うてけり、む月におがみ奉らんとて、小野にまうでたるに、ひえの山のふもとなれば、雪いとたかし、しいてみむろにまうでヽおがみ奉るに、つれ〴〵といと物かなしくておはしましければ、やヽ久しくさぶらひて、いにしへの事など思ひ出て聞えけり、さてもさぶらひてしがなとおもへど、おほやけ事ども有ければ、えさぶらはで、夕ぐれにかへるとて、 わすれては夢かとぞ思ふおもひきや雪ふみわけて君お見んとは、とてなんなく〳〵きにける、