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北越雪譜
初編下
童の雪遊び 我があたりはしば〳〵いへるごとく、およそ十月より翌年の三月すえまでは、歳お越て半年は雪也、此なかに生れ、此なかに成長するゆえ、わらべの雪遊びおなす事さま〴〵ありて、暖国にはなき事多し、その中に暖国の人にはおもひもよらざるあそびあり、まづ雪お高く堀揚おきたる上などお、童ども打よりて手あそびの木鋤にて平らになしてふみつけ、〈わらべも雪中にはわらぐつおはくこと、雪国のつねなり、〉さて雪おあつめて土塀お作るやうに、よほどの囲おつくりなし、その間ひにも雪にて壁めく所おつくり、こヽに入り口おひらきて、隣の家とし、すべての囲にも入り口おひらく、此内に宮めかす所お作り、まへに階おまうけ、宮の内に神の御体とも見ゆるやうにつくりすえ、これお天神さまと称し、〈えびす大こくなどもつくる〉筵などしきつめ、物お煮べき所おも作る、すべてみな雪にて作りたつる也、〈雪おくぼめぬかおしきて、火おたくにきゆる事なし、〉これお雪( ん)堂又城ともいふ、児曹右の雪( ん)堂の内にあつまり、物など煮て神にもさヽげ、みなよりてうちくふ、又間にへだてお作りたるは、となりの家に准へ、さま〴〵の事おなしてたはむれ遊ぶ、あそび巻ば、斯作りたるお打こぼつおもあそびとし、又他の童のこれにちかく、おなじさまに作りたるお、城おおとすなどいひて、うちくるふもあり、そのまヽにおくもあり、おのれ牧之も童のころは、かヽるあそびの大将おもせしが、むなしく犬馬の齢お歴て、今は夢のやう也けり、