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窻の須佐美

寛延三年四月の末、晴天なりし申刻ばかりにや、東北に黒雲深く雪も少々ふりて、白雨つよく氷のふる事、雪のごとく二尺ばかりつもりけり、氷重さ大なるは廿八匁ありしとぞ、御城廻りより、東地屋根の瓦お砕き堀おくづし、腰板など砲子の玉の打たる如く、ふかき跡附しとぞ、烏燕雀など多く損じけるとぞ、本所辺猶強く家のくづれたるも多かりしとなり、芝青山の辺は、一旦夕だち立たるばかりなり、氷のふることはとき〴〵あれども、かヽる事は終に聞ず、是につきて四五日前、秩父山より初て、川越の城三吉野の里といふあたり、大なる氷降て〓おこと〴〵くに、打つぶしけるとぞ、