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源平盛衰記
十一
旋風事
六月〈◯治承三年〉十四日旋風火吹て、人屋多く顚倒す、風は中御門京極の辺より起て、坤の方へ吹以て行、平門棟門などお吹払て、四五町十町持行て、抛などしける、上は桁梁垂木こまいなどは、虚空に散在して、此彼に落けるに、人馬六畜多く被打殺けり、屋舎の破損はいかヾせん、命お失ふ人是多し、其外資財雑具、七珍万宝の散失すること数お知ず、これ徒事に非ずとて御占あり、百日の中の、大葬、白衣の怪異、又天子の御慎、殊に重禄大臣の慎、別しては天下大に乱逆し、仏法王法共に傾、兵革打続、飢饉疫癘の兆也と、神祇官、并陰陽寮共に占申けり、係ければ、去にては我国今はかうにこそと上下歎あへり、〈◯平家物語為五月十二日事〉