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塵塚談

不忍池より天明年間竜巻ありけり、佐渡越後越中の海中には、夏の日竜騰る事度々有と、其節は虚空より黒雲下り来れば、海中の潮水、滝お逆に掛しごとく逆巻のぼり、黒雲中に入る、其雲の中に竜の形の如きもの見ゆると伝聞り、其如く不忍池より黒雲逆巻のぼり竜騰りしと見へ、近辺家屋お損し、火の見櫓など倒せしなり、その次第お聞に、北海にて竜騰るの形勢に、少しも替らず同様なり、是おもて見れば、小しき池底にも竜蟄伏し、池水時気に乗じて発達し、上よりは応じて雲下り、上下相感動し竜昇るものなるべし、