[p.0273]
今昔物語
十九
比叡山大鐘為風被吹辷語第卅八
今昔、比叡山の東塔に大鐘有けり、高さ八尺廻り也、而る間、永祚元年〈己丑〉八月の十三日、大風吹て所所の堂舎宝塔門々戸々お吹倒しけるに、此の大鐘お吹辷はして、南の谷に吹落してけり、最初の房の棟板敷お打切て谷様に辷て、次々の房共同じく打抜つヽ、七つの房お打倒して、南の谷底に落入にけり、夜半計の事なれば、此の房共に人皆寝入たる程なれども、其れに人一人不損りけり、其の比の希有の事になむ雲喤ける、