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陰徳太平記
三十八
戸次道雪斬雷事
道雪長夏炎熱の難堪まヽ、河朔の避暑おなすべしとて、書院の大庭なる木陰に席お設け、荷葉の杯お行らし、微酔して枕に倚居られけるに、〈◯中略〉俄に空掻曇り、黒雲白雨お帯て、恰も三千丈の爆布の水お巻て来るが如に、当る所は透りぬべく降て、霆頻りに轟き、雷火忽落下して、庭中お奔迸す、道雪は早業の達者なれば、側に置たりける、千鳥と雲る刀お取て飛かヽり、雷と覚しき者お抜打に、丁と切て飛去けり、形は何かは不分明、手当して覚けるが、刀の雷に当りたる験の有けるにぞ、実に雷お切たりとは知られける、それよりして、此刀お雷切と改名す、され共道雪も雷の余焰に中られて、身体此彼所損ぜられ、片輪者になられにけり、〈◯又見大友興廃記六〉