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閑田次筆

むかし彦根の士、父子居間お異にしてありしが、雷鳴甚しく、正しく其子の居れる室へ堕たる音お聞て、父やがて走り行て、いかに〳〵といへば、こヽに侍ふと烟気の中よりこたふ、立よりて見れば、半身焦れながら、気はたしか也しかば、さま〴〵療治して平復したりしとなり、めづらしき豪気の人もあれば有ものなり、凡震死せる人、其身の焦るは希にて、音におびへ肝お潰せるが多し、或は堕たる家は障なくて、其隣の人の震死せるもまヽ聞ゆ、是等は響の筋に触たるものといふはさもあるべし、臍ひらくものは不救といへり、俗に雷が臍お掴むといふも此こととぞ、