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惇信院殿御実紀附録
延享のころにか有けむ、水無月の末つかた、暴雨せしに神なりひらめき、四面晦冥したりしが、やがて本城近きあたり雷の落たりしに、そのひヾきおびたヾしかりしかば、御前ちかくさぶらふ小姓小納戸等も、みな色おうしなひてひれふし、人ごヽろもなくなりぬ、御側の衆はじめ直廬に侍らひし人々も、かねて雷地震忌せ玉ふまヽ、いかにおどろかせ玉ふらんと、いそぎ御前にはしり参りたれば、侍臣等はみな俯伏してあるなかに、公〈◯徳川家重〉のみ常の御さまにて御しとねの上に、端坐してまし〳〵ける、軽き時は忌せ玉ふものヽ、かくつよき時に至り、正しくましませしことの、いづれも驚感し奉りしとぞ、