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塵袋

一虹と雲ふは何れの所変ぞ、蟾蜍のいき歟、虹は日輪のめぐりの半より上かえ、くもに映じてみゆる也、博聞録に、虹霓は但是れ雨中の日影なりと雲ふ、虹はおにじ、霓はめにじと雲ふことあれども、いき物にあら子ば、実の雌雄もあるべからず、されども虫篇おしたがへて動物に思ひならはせるゆへに、字対にも動物に用ふ、実義にはそむけり、雲のうすき所に虹もうすくみゆ、又影うつろひて、別にうすき虹の見ゆることもあり、是れ等おわきて、めにじ、おにじと雲ふ歟、日西にあれば虹は東にあり、かげのうつりむかひて見え、そらの日の勢お見れば、わづかなる日輪とおもへども、かげにうつす時は、おびたヾしき也、五十一由旬の輪の形おうつせば、いかほど大なりともあやしむべきにあらず、日本紀には虹おばぬじとよめり、それお今はにじと雲ひならはせり、和語の古今におなじからざる事、これにかぎらざる歟、又鎮星散じて為虹と雲へることもあり、おぼつかなき事也、