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閑田次筆

室のやしまに立煙は、よヽの歌にきこゆ、しかるに其所お貝原翁の日光の記の附録に、金崎といふより一里半にして総社村あり、林のうちに総社明神のやしろあり、是下野国の総社なり、其前に室の八島あり、小島のごとくなるもの八つありて、其廻りはひきく池のごとし、今は水なし、島の大きさいづれも方二間計、其島に杉少し生たり、此島の廻りの池より水気烟のごとく立のぼるお賞しける也、其村の人あまたに問けるに、今は水なきゆえ煙もたヽずといへりと記さる、しかるに此頃かの国の士の一説お得たり、これは一所にあらず、島と号る所八村倶に都賀郡にて、鯉が島、高島、萩島、大川島、卒(そ)島、曲(まが)の島、沖の島、仲の島等也とぞ、いづれか是なることおしらねど、見きくまヽに記す、さて煙ははたして水気歟、又里の煙歟しらず、室といふは若一所ならば総社村の古名歟、都賀郡の所々おいふとならば、郡内にて室といふ総名ありしにや、弁ふべからず、室といふ名も煙によしあり、