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秋里随筆

須摩亀井日和
敦盛の古墳お拝しありけるうち、早卒として天のけしき損、暴風雨おまじへ、且々(しば〳〵)しづかならず、聊茶店の軒に舎おもとめ、とても此けしきにては、ゆくこと能ふまじと、蓑の紐ときけるに、亭主の曰、旅客さはおどろき玉ふことなかれ、これは亀井日和(○○○○)なりといふ、〈◯中略〉亭主答へて物語りけるに、家目井(かめい)何某と申けるは、先祖九郎よしつね公に随ひ、平家お誅せし、亀井六郎重治が末なるよし、これによつて亀井侯御通行の時は、かならず日和崩れて、風雨おさそひ、しづかならず、侯過行たまへば、たちまち快晴することなり、故に雨風おまじへ降とも、山はれ沖くもりなき時は、亀井日和といひならはせるよし、