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平治物語

叡山物語事
四方山の御物語ぞ有ける、扠も双六の塞の目に、一が二つおりたるおば畳(でつ)一と雲、二が二つおりたるおば重二と雲、五六おも畳五(でく)畳六と申す、是れ皆重る儀なるに、三四計お朱三朱四と雲こそ心得子、是お御尋候へかしと被申ければ、法皇〈○烏羽〉げにもとて、信西お被召て、此由お被仰下ければ、さん候、昔は同く重三重四と申けるお、唐の玄宗皇帝と楊貴妃と双六お遊しけるに、重三の目が御用にて、朕が思ふ如くに出たらば、五位になすべしとて遊しければ、重三おりき、楊貴妃又重四の目おこふて、我が心の如くにおりたらば、倶に五位になすべしとて打給ふに、重四出たりき、依て天孑に俗言なし、同五位になさむとて被成けるに、何おか験しにすべきと雲に、五位は赤衣お著ればとて、重三重四の目に朱おさヽれてより以来、朱三朱四とよぶとこそ見へて候へと奏しければ、諸卿皆理にやと感じあはれける、