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大鏡
四/右大臣師輔
元方式部卿のむまご、まうけの君にておはするころ、みかどの御庚申せさせ給ふに、この式部卿まいり給へる、さらなり、九条殿〈○藤原師輔〉さぶらはせ給ひて、人々あまたさぶらひてご〈○ご、一本作だ、〉うたせ給ふついでに、冷泉院のはらまれおはしましたるほどにて、さらぬだによひといかゞとおもひ申たるに、九条殿こよひのすぐろくつかうまつらんと、おほせらるゝまゝに、このはらまれ給へるみこ、おとこにおはすべくば、でう六いでことて、うたせ給ひけるに、たゞ一どにいでくるものか、ありとある人、めお見かはして、かんじもてはやし給ひ、わが御みづからも、いみじとおぼしたりけるに、この式部卿のけしきいとあしうなりて、いろもいとあおくこそなりたりけれ、さてのちにれいにいでまして、その夜やがて、むねにくぎはうちてきとこそのたまひけれ、