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大鏡
六/内大臣道隆
入道殿〈○藤原道長〉みたけにまいらせ給へりし道にて、帥殿〈○藤原伊周〉の方より便なきことあるべしときこえて、つねよりもよおおそれさせ給ふに、たひらかにかへらせ給へば、彼殿もかゝる事聞えたりけりと人の申せば、いとかたはらいたくおぼされながら、さりとてあるべきならねば、まいり給へり、道のほどの物がたりなどせさせ給ふに、帥殿いたくおくし給へる御気色のしるき、おかしくも又さすがにいとおしくもおぼされて、ひさしく双六つかうまつらで、いとさう〴〵しきに、けふあそばせとて、双六の枰おめしておしのごはせ給ふに、御気色こよなうなおりて見え給へば、殿おはじめ奉りて、まいり給へる人々、あはれになん見たてまつりける、さばかりの事おきかせ給ひけれど、入道殿はあくまでなさけおはします御本性にて、人のさおもふらん事おば、おしかへしなつかしくもてなさせ給ふ也、この御はくやうは、うちたゝせ給ひぬれば、ふたところながら、はだかにこしからませ〈○からませ、原作かうまらせ、今拠一本改、〉給ひて、夜半暁まであそばす、