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耽奇漫錄
十集
双六廿八種
浄土双六四種 古画〈南無分身諸仏〉 古板〈同〉 阿部侯蔵版〈一二三〉 西村屋版〈同〉 道中双六〈延宝天和の比の板行〉 恵方参詣双六〈笠森於千土平飴あり〉 おでゞこ双六〈莞爾模刻〉 藤川平九郎大てけ双六〈鱗形屋板〉 伊勢は津でもつ双六 鳴もの尽し双六〈大坂板〉 岩戸双六〈鶴金板〉 市村顔見世双六〈丸小板〉 福神双六 染分手綱双六 かわるが、早い双六〈鱗形屋板〉 ほうしやもゝ双六 甘露壺双六〈鶴屋板〉 道中名所双六〈西宮板〉 同〈鱗形屋板〉 同 京大坂船路双六〈四条升屋板〉 せりふ双六 顔見世双六〈岩戸屋板〉 振分道中双六〈沢村板〉 太郎稲荷双六〈和泉屋板〉 東歌伊呂波双六 江戸巡り双六〈山田屋板〉 同〈○中略〉
扠この後一鋪の紙にしるしたる双六いで来にけり、名目双六〈天台の名目おしるす〉官職双六〈位階の昇進おしるす〉あり、これらみな飛双六にて、童子おしてそのことおしらしめんが為也、猶くだりては、浄土双六、ばけ物双六等あり、また一変して道中双六といふものあり、そのはじめお詳にせずといへども、余〈○山崎美成〉が蔵したるものに、京師の図に二条の御城の天守おえがけるお見れば、天守焼亡の前にいで来りしものにやあらん、これは采の目の順に数おかぞへ進めり、近松作の丹波与作と雲浄るりに、道中双六といふげいとあり、これ〳〵御らんぜ、うたしやんせ、是こそ五十三次お、いながらあゆむひざくりげ、馬はいしい道中すご六、南無諸仏ぶんしんと、かいた六字お六かくの、さいかさくら木、花の都おまん中に、思ひ〳〵のしるしおおいてとあり、これお思ふに、常のさいお用ず、右の六字おしるしたるは、浄土双六よりうつり来にけるものなり、また遊学往来に、毘沙門双六、七双六、一二五六双六、一卜半打盗人隠、有哉立、島立、太々立、十六目石、百五減、十不足、郎等打、これらの戯、いまこと〴〵く考ふべからず、東鑑の四一半、古今著聞集の七半の類などにもあらんか、記して後考お俟つ、後世坊間に刻する所、おでゞこ双六、福神双六等、枚挙にいとまあらず、
右拙案一篇は、松蘿館珍蔵のふるき双六くさ〴〵お、こたび耽奇会に出し給へるに付て、思ひよれるふしもあらば、聞まほしとのことなりければ、聊そのよししるして贈り侍るになん、
文政乙酉〈○八年〉春正月二十日 山崎美成記