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源平盛衰記
二十五
時光茂光御方違盗人事
金田府生時光と雲笙吹と、市允茂光と雲篳篥吹あり、常に寄合て囲碁お打て、果頭楽の唱歌おして、心お澄したれば、世間の事、公私につけて何事も心に入ざる折節、内裏より、とみの御事ありて、時光お被召けり、いつもの癖なれば、時光耳にも聞入ず、勅使こは如何にといへども不驚、家中の妻子所従までも大に騒て、如何に如何にと勧めけれ共、終に聞ざりければ、御使力及ばず、内裏に参て此由お奏聞す、何計の勅勘にてかあらんと思ける処に、主上仰の有けるは、勅命お不顧、万事お忘て心お澄し、面白かるらんやさしさよ、王位は口惜き者哉、さやくの者共に、行て伴はざるらん事よとて、御涙お流し、御感有ければ、事なる子細なし、