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今昔物語
二十四
碁擲完蓮値碁擲女語第六
今昔、六十代延喜の御時に、碁勢、完蓮と雲ふ二人の僧、碁の上手にて有けり、完蓮は品も不賤して、宇多院の殿上法師にて有ければ、内にも常に召て御碁お遊しけり、天皇も極く上手に遊しけれども、完蓮には先二つなむ受〈○受一本作劣〉させ給ひけり、常に遊ばしける程に、金の御枕お懸物にて遊しけるに、天皇負させ給にければ、完蓮其の御枕お給りて罷出るお、若き殿上人の勇ぬるお以て奪ひ取せ給ひにければ、此様に給はりて罷出るお、奪はせ給ふ事度々に成にけり、而る間猶天皇負させ給て、完蓮其の御枕お給はりて罷出けるお、前の如く若き殿上人数追て、奪取らむと為る時に、完蓮懐より其御枕お引出て、后町の井に投げ入れつれば、殿上人は皆去ぬ、完蓮は踊て罷出ぬ、其後井に人お下して枕お取上て見れば、木お以て枕に作て金の薄お押たる也けり、早く実の枕おば取て罷出にけり、而る枕お構へ持たりけるお投入れける也、而て其枕お打破て、仁和寺の東の辺に有る弥勒寺と雲ふ寺おば造る也けり、天皇も極く構たりとて咲はせ給ひにけり、