[p.0107]
古碁枢機

この古碁枢機は、年久にわが家に伝へぬる書にして、遠つ祖算砂上人よりして、代々の名高き人達の、後のよまでもつたへぬる囲碁にして、更にまたたぐひなきふみなり、おのれ朝ゆふこれおとり出て、そがまゝおまねびかこみ見るに、その妙なること、たえてひとのおもひよるべくもあらぬ手どもなんおほかりける、しかるに今かゝる静けき大御よにあひて、たれもたれも此ことお明暮のなぐさとして、おのゝえもくだすばかりたのしみ物する時なれば、かくてひめおかむもいとあたらしく、はて〳〵はかぐつちのあらびにもあひ、しみの住かともなりぬべきに、こたび彼上人の二もゝとせのむかししのぶむしろに、つらなれる人にもわかち、ひろくよ人のめおもおどろかさむとて、板にえらせつることゝは成ぬ、
文政五のとしの春 本因坊元丈しるす