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曾呂利狂歌咄

双六おうつ人、もし七目お塞がれては術なき事、腸お断ちて悶え焦る、碁お囲む人は敵に取込めちれ、〓(なかで)おろされては、逃遁れんとものする有様、多く負けぬれば、後は腹立ち怒り、助言する人あれば、穴勝に怨お含む、誠に我執といひながら、愚なる事になん、味方お生して敵お殺さんと、手お盗み偽お構へ、主従父子師弟兄弟と雖も許さず、四重五逆の罪にも過ぎたりと、兼好がいひけんも道理ぞかし、これほどに心お入れてすべくば、何れの事か感応の上手とならざらん、あたら光陰お徒に費す事、聖賢の旨に違ふらんとぞ覚ゆるといひければ、世に高麗胡椒とて好む人、その辛き事魂お消り、胸お煉らかして、これお見しと思ひたる彼の囲碁双六に負色付きて、憤(いきどほ)しきお慰みにせば如何せん、蓼食ふ虫もあるものおと、呟く人も有りけり、
双六に七目塞がれ碁にしちやう唐椒より辛う覚ゆる