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象戯百箇条之伝
象戯之心得
一象棋は初二三十手之内指組大事たるべし、初之内に非手有之時は終迄弱になり、指直す事成まじき也、二三十手之先に非有之ば、弱に乗て其処不抜やうに指時には勝になるべし、又手前に非手有之時は、先より如其指掛る故、負になると心得、一手々々に見合、始終お見届指べきこと専一と心得べし、詮儀おつめて見る時は、双方不負はずなれども、微塵之非手有之方負なるべし、猶振あしき象戯指直すことも有べし、夫は先之下手故也、互に上手時は、其先抜指直すこと成がたし、下手には如何にても勝べし、〈○中略〉
一象戯も負惜み名お大事にたしなみ専一たるべし、嗜がらにて象戯もつよく相見へ、嗜無之者は不指前より下手と見ゆる、能々心得べし、森田宗立は象戯大切に存、数番指不申段猶至極也、脇よりは一入芸の上手と感入せり、宗立程之象棋に而、尚々以深切之心持肝要たるべし、
一先年駿州に而松平五郎右衛門殿、日比半平指し象戯につみ不申処お、半平不思儀に詰、皆々感入之由、定而此段不思儀に詰たるに不可有、つみ有処なれども皆々下手故に、見へか子たるなるべし、つみなき処ならば、誰がつめたりとも詰不申はずなり、つみ有処故、半平能々案じ詰たるべし、上手には不思儀之つみ抔と雲ことはなし、互之上手は位づめの勝負より外なし、不思儀の手段は一方弱故也、つみ有処も不見、必究上手には無之事なるべし、右之論は象戯不指者之了簡なるべし、兎角象戯は気之持やう大事たるべし、常々右之通心掛弥可執行也、C 作法