[p.0159][p.0160]
双蝶記

蛇くふと聞ばおそろし老女の懺悔
さて塵兵衛は、駕籠のうちに尻かけて、往来の旅人にむかひ、駕籠にめさずや、駕籠々々とよび居たるに、諸社の宮奴に、やとはるゝおなりはひとする幣又といふ者、烏帽子に白張おひきかけて、極楽寺の切通しの方より来つ、〈○中略〉幣又は打笑ひ、昨日星の御堂の軒下で、さしかけた将棊の勝負せまいか、おヽ昨日の駒組おぼえて居る、銭がとれいで此方も退屈、おヽ慰にさして見やれと、幣又は、たづさへたる懐中将棊お取出して盤の紙(○○○)お芝のうへにおしひらけば、塵兵衛もむかひ合、たがひにならぶる駒の数、磯の小石と貝殻は、歩の不足とぞ見えにける、