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太平記
二十七
田楽事附長講見物事
今年多の不思議打続中に、洛中に田楽お玩ぶ事、法に過たり、〈○中略〉将軍の御桟敷の辺より厳しき女房の練貫の妻高く取けるが、扇お以て幕お揚るとぞ見へし、大物の五六にて打付たる桟敷傾立た、あれや〳〵と雲程こそあれ、上下二百四十九間共に、将碁倒おするが如く、一度に同とぞ倒ける、〈○中略〉梶井宮も御腰お打損ぜさせ給ひたりと聞へしかば、一首の狂歌お四条川原に立たり、
釘付にしたる桟敷の倒るヽは梶井宮の不覚なりけり
又二条関白殿も、御覧じ給ひたりと申ければ、
田楽の将碁倒の桟敷には王計こそ登らざりけれ〈○又見海人藻芥〉