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有徳院殿御実紀附錄
十九
或時侍臣に宣ふには、群下お馭するに、象棋つかひおりばつかひといふ事あり、象棋つかひといふは、まづ盤にむかふより心おさだめ、王将の位お正しく守り、金銀桂馬各その職お犯さず、飛車角より歩兵にいたるまで一手いだすも疎略なく、ひづみのなきおもとゝし、時にのぞみ事により、狼狽せざるおよしとす、これ名将の士卒お指揮するにたとふ、またおりばつかひといふは、盤に向ふと其まゝ何の心得もなく、股子の出るまゝにして、あたるお幸に世おわたる、これ愚将の下に莅むにたとへしものなりとぞ、