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楊弓射礼蓬矢抄追考
楊弓射様の事
抑楊弓の射やういろ〳〵ありといへども、習なくして射るときは、たとひ矢数おほく中るとも、金貝の射手常住金貝ならず、泥書の射手常住泥書ならず、席毎に不同ありて、終には矢数おちて、朱書もならず、是習得ざるがゆへ也、能ならひ得て射こむときは、常住さだまりて矢数おつることなし、他流はしらず、予〈○今井一中〉が流といふは、先弓矢の拵やうに口伝あり、一々道理おせめて造れり、扠楊弓お射るに第一心持あり、仮にも散乱の心あるときは、中ることなし、心お鎮め気お煉して、他へ心気おうつさず、一念に一矢一矢お大事にすべし、一度のうち一矢はづるゝは、わづかのやうなれども、百手にかさなる時は、大きなる違となる、先左の膝お的のとおりにむかはせ、右の膝お堋の左の足のとおりにむかふと心得べし、弓おとり矢お番るにも、心しづかにして、つまみの所、百手ともにおなじやうにつまむべし、押手のかた、左の大指お弣の右のかどへかけ、左へ押出すやうにすべし、左の人差指お弣にのせて矢台にすべし、是お指台といふ、残り三つの指はうきものにて、すこしもりきむべからず、右の付人々の勝手ありといへども、先は親指お右の鼻の穴へ入、はなのへだてへ親指の頭おあてゝ、是お定規とすべし、矢おはげ膝の上にて一はいに引つめ、すこし間おあらせて、打上て覘ふべし、的おねらふにいろ〳〵あれども、的の上ぶち下ぶちなどねらふはあしき事也、的と堋の横木との間にてねらひおさだむべし、いづかたおねらふとさだめずして、空なるところおねらふといふ事、是大事のならひ也、総じて早気は弓の病にして、早気の分はみな中らず、もしあたるともまぐりあたり也、随分たもちてよくねらひ、矢つぼさだまりたる時、押手と付と張合せて放す時は、あたらずといふ事なし、一度に矢四本あり、一の矢射るに、残りいまだ三本あるとのたのみにて、麁末の心あり、一矢一矢お大切にして射るべし、右大概のおしへ也、くはしき事は書面にしるしがたし、口授ならではつたへがたし、よく〳〵工夫あるべし、