[p.0221]
海錄
十六
投扇興といふ戯れあり、そは近く安永三年に専ら世にもて興ぜしより、都鄙あまねくしらざるものなし、そのころの冊子に、投扇興譜といふ小冊あり、その後また文化十年にも行はる、そのころ投扇興図式といふ小冊あり、その後また文政にいたりても、予〈○山崎美成〉しれる中川五兵衛といふもの浅草寺の境内にて、この戯お始たりしが、公より禁ぜられて止みぬ、この間にも猶ありや、さて西川〈○祐信〉の絵本の零冊お得たるに、投扇興おもて興ずる図あり、その書表題なし、紙数お記せし所に世中の字あり、尋ぬべし、祐信の絵ならば享保頃の証とすべし、しかる時はその来るも亦ふるしと雲べし、