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安斎随筆
前編十二
一物合 すべて物合は多の人おあつめて、左方右方と二わけにして、右と左と相つがひて、双方の物お合て、判者あうて其勝負お判断する也、双方同位にて勝負なきお持と雲、〈持の字おぢとよむ〉本歌合より起るなるべし、詩合にもあり、たき物合、香合、〈香はきやらの事也〉草合は草花お合する也、貝合〈貝おほひの事にはあらず〉と雲は、種々の貝がらお合する也、根合と雲は菖蒲の根お合する也、根の長きお勝とす、絵合は絵にて物お合する也、古は琵琶合もありし、古く名あるびはお合せし也、すべて何お合する、何は合せずと定りもなし、時によりて何おも合する遊び也、草合、貝合、根合の類は、各歌およみて其物にそゆる也、其歌によせ作り物おすはまなどの台にして、その台に草にても貝にても根にてもすべて出す也、其歌に勝負あり、又草子合は古き物語の草子お合す也、又扇合もあり、鴨合もあり、皆古代の遊び事也、勝負の舞楽ある事もあり、花奢風流おいとなみあらそひ、其料に多くの財おついやせり、猶婦女の悦ぶ事也、