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栄花物語
八/初花
完弘三年になりぬ、〈○中略〉三月ばかり花山院には、五六宮おもてはやしきこえさせ給とて、とりあはせせさせ給てみせたてまつらせたまふ、おやはらの五のみや〈○昭登〉おば、いみじうあいしおぼし、むすめばらの六宮〈○清仁〉おばことのほかにぞおぼされける、かゝる程に世の中の京わらはべ、かたりきゝてとり〴〵のゝしる、人の国までゆきて、いさかひのゝしりけり、かゝるいまめく事どもお、殿〈○藤原道長〉きこしめして、かいひそめて、おはしますこそよけれ、いでやとおぼしきゝ奉らせ給ふ程に、院のうちの有様おきて給ふ事ども、いとおどろ〳〵しういみじ、その日に成ぬれば、左右の楽屋つくりて、さま〴〵の楽舞などとゝのへさせ給へり、とのゝ君たちおはすべう御せうそくあれば、みなまいり給、さるべき殿ばらなどもまいりたまふて、いまは事どもなりぬるきはに、このとりの左のしきりにまけ、右のみかつに、むげに物はらだゝしう心やましうおぼされて、たゞむつかりにむつからせ給へば、見きゝ給人々も、心のうちおかしうおぼしみ奉りたまひけり、左万におぼえむつかりて、ことなる物のはへなくてそれにけり、いとこそおかしかりけれ、