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弁内侍日記

二十七日〈○建長元年二月〉は七社のほうへいなり、〈○中略〉三日の御烏あはせに、ことしは女房のも合せらるべしときゝしかば、わかき女房たち、心つくしてよきとりども尋られしに、宮内卿のすけどのは、為教の中将がはりまといふ鳥おいださんなどぞありし、万里小路大納言〈○公基〉のまいらせられたるあかとりの、いしとさかあるかけ、いうもうつくしきおたまはりて、あきつぼねにほこらかしておきたるお、もりありといふ六位が、そのとりきとまいらせよといふ、かまへてとりなどにあはせらるまじきよし、よく〳〵いひてまいらせつ、とばかりありて、かためはつぶれ、とさかよりちたり、おぬけなどして、見わするほどになりてかへりたり、おほかた思ふばかりなし、今はゆゝしき鳥ありとも、なにゝかはせん、たまはりの鳥なれば、きくもいみじからむとこそ思ひしになど、かへす〴〵こゝろうくて、弁内侍、
われぞまづねにたつばかりおぼえけるゆふつけ鳥のなれるすがたに、三日、〈○三月〉御鳥合なり、御所〈○後深草〉もひろ御所へいでさせおはします、冷泉大納言、〈○公相〉万里の小路大納言、左衛門督、〈○藤原実藤〉三条中納言、〈公親〉頭中将、〈公保〉伊与中将、〈公忠〉すけやすの中将、蔵人はのこりなし、はつゆきなるあかこくろなどいふ鳥ども、かねてよりふせごにつきて、おの〳〵あづかりて、丁子じやかうすりつけ、たきものなどして、いづれかにほひうつくしきとぞあらそひし、みすのうちより出されしかば、万里小路の大納言たまはりてあはせられし、ゆゝしかりし君なり、ひよ〳〵より御所に御手ならさせおはしまして、かひたてられしいみじさばかりにてこそ侍れ、御とりがらはあやしげなれば、かたせんとて、それよりおとりたる鳥どもに合せられしもおかし、公忠公保がとりあはせしおり、伊与中将がとり、そらおどりするとて人々わらひしに、冷泉大納言、ひさかたのそらおどりこそおかしけれとのたまへば、公忠さこそといひたりし、おかしくて、弁内侍、
雲いとはなれさへしるや久かたのそらおどりする鳥にも有哉