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源順集
ある所の前栽合の歌の判ある所に、男女かたわきて、御前の庭のすゝき、荻、しらに、しおに、くさのかう、おみなへし、かるかや、なでしこ、萩などうえさせ給ひ、松虫鈴虫おはなたせ給ひて、人人にやがてその物どもにつけて歌お奉らせ給に、おのが心々に我も〳〵と、あるは山里の垣ねにさおしかの立より、あるはかぎりなきすはまの磯づらに、あしたづのおりいるかたおつくりて、草おもおほし、虫おもなかせたる、仰ごとゝて、花の有様むしのすがた、いづれも〳〵いとおかしかめり、歌のおとりまさりは、さだめでやはあるべき、たれしてかさだめ申さすべきと仰給に、これかれまうす、さきのいづみのかみ源順朝臣なん、おほやけには梨壺の五人がうちにめされ、宮にはおもと人八人がうちにてさぶらひし人也、これおめしてこそさだめられんに、よろしからめと申によりて、かねて其事とはなくて、こよひすぐすまじきまめごとなんあるとてめしたり、かみのつかさ、たゞすつかさのおほいすけたち、こなたかなたにさぶらひ給ひ、かゞの掾橘のまさみちによみあげさせ、順朝臣にことわらせ、学生ためのりに今日のことおかきおかせ給ふなかに、ためのりなん源といふ人にもあらず、千種に匂ふ花のあたりにはもぎ木のやうにて、まじりにくゝ侍れども、やんごとなくさぶらふべき、みやまのふもとよりおひ出たる草のゆかりにて、仰ごとのいなびがたさに、みづぐきして書しるして奉りおく、其歌ども順朝臣さだめ申さる処かくなん、〈○中略〉天禄といふ年はじまりて、みとせの秋の半、長月のしもの十月に今二日おきて、大井にての事なり、〈○又見古今著聞集〉