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古今著聞集
五/和歌
東三条院〈○一条母藤原詮子〉皇太后宮と申ける時七月七日撫子あはせせさせ給けり、少輔内侍、少将のおもと左右の頭にて、あまたの女房おわかたれけり、うすものゝふたあいがさねのかざみきたるわらは四人、なでしこのすはまかきて、御前にまいれり、其風流さま〴〵になん侍ける、なでしこに付たりける、
なでしこのけふは心おかよはしていかにかすらんひこぼしの空
時のまにかすと思へど七夕にかつおしまるゝなでしこのはな
すはまにたちたるつるに付ける
数しらぬ真砂おふめるあしたづはよはひおきみにゆづるとぞみる
瑠璃のつぼに花さしたる台に、あしでにてぬひ侍ける、
たなばたやわきてそむらんなでしこのはなのこなたは色のまされる
むしおはなちて
松虫のしきりにこしめ聞ゆるは千世おかさぬるこゝうなりけり
右のなでしこのませにはひかゝりたる、いもづるのはにかきつけ侍る、
万代に見るともあかぬ色なれやわがまがきなるなでしこの花
すはまのこゝろばに、みづてにて、
とこなつのはなもみぎはに咲ぬれば秋までいろはふかく見へけり
久しくもにほふべきかな秋なれど猶とこなつの花といひつゝ
七夕まつりしたりけるかたあり、すはまのさきにみづてにて、 ちぎりけん心ぞながきたなばたのきてはうちふすとこなつのはな
ぢんのいはほおたてゝ、くろばうお土にて、なでしこおうへたるところに、
代々おへていうもかはらぬなでしこもけふのためにそにほひましける
此歌其は兼盛能宣ぞつかうまつり侍ける、これお見る人々、おのがひき〳〵心々にいひつくるとて、左の人、
かちわたりけふぞしつべき天の川つねよりことにみぎはおとれば
右の人
天の川みぎはことなくまさるかないかにしつらんかさゝぎのはし
此あそびいと興ありてこそ侍れ