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山家集
下/雑
内〈○二条〉に貝あはせせむとせさせ給けるに、人にかはりて、
風たゝで波おおさむるうら〳〵に小貝おむれてひろふ也けり
なにはがたしほひにむれて出たゝむしらすのさきのこ貝ひろいに
風吹ば花咲波のおるたびに桜貝よるみしま江のうら
波あらふ衣のうらの袖がひおみぎはに風のたゝみおくかな
なみかくる吹上の浜の箔貝風もぞおろすいそにひろはん
しほそむるますおのこ貝ひろふとて色の浜とは雲にや有らん
波よするたけのとまりのすゞめ貝うれしきよにもあひにける哉
波よするしらゝの浜のからす貝ひろひやすくもおもほゆる哉
かひありな君が御袖におほはれて心にあはぬことしなき世は〈○中略〉
伊せのふたみのうらに、さるやうなるめのわらはどものあつまりて、わざとのことゝおぼしく、はまぐりおとりあつめけるお、いふかひなきあま人こそあらめ、うたてきことなりと申ければ、かひあはせに京よりひとの申させ給たれば、えりつゝとるなりと申けるに、
今ぞしるふたみのうらのはまぐりおかびあはせとておほふ也けり