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狂言記

あはだ口
〈大名〉罷出たるは、遠国の大名、太郎くわじや有か、〈くわじや〉おまへに、〈大名〉ねんなふはやかつた、此中のたからくらべは、おびたゞしい事ではなかつたか、〈くわじや〉中々おびたゞしい事で御ざりました、〈大名〉いづれものたからにまけいでうれしいな、〈くわじや〉いやも、わたくしらていまでが、うれしう御ざりまする、〈大名〉それよ〳〵、さりながら明日は、あはた口お、くらべさつしやれうと有、してそれがしがたからの内に、あはた口といふものはないか、〈くわじや〉されば殿様の七万宝のたからの中に、あはた口は御ざりませぬ、〈○下略〉