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安斎随筆
前編十二
一沈 古書に沈とあるは沈香にて、本は沈水香也、其内には沈香もあり、奇南香もあるべけれども、一概に沈と雲し也、古は沈香も奇南香も似たる物ゆへ分れざりしか、奇南香は今世伽羅と雲ふ物なり、薬に用るには、沈香は気お降し、奇南香は気お升すといふ差別あり、又薫物は種々の香物お調合したるお雲、又中古以来香と雲あり、香は奇南香の事也、此一種のみ香と雲て賞玩する事は、佐々木入道佐渡判官道誉より始ると雲、其より後、香聞香合せの勝負など雲事あり、沈香奇南香ともに占城国より出る、西域の地方也、