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春湊浪話

伽羅
合薫物といふものは、〈○中略〉源氏物語にも多く見へ、六種の合薫物も聞えて久敷世に玩し事なり、又沈水香とも栴檀香とも日本紀に見え、牛頭栴檀と源氏に書て、今は伽羅といふものゝ一種の木お焼て、其香お玩ぶ事は昔には聞えざりき、本名奇南香といふか、是お出す処六国あり、伽羅とは其六つの中の一国の名なり、今はなべての名に呼、是も鎌倉北条執権の末より起りしことにや、佐々木入道道誉是お好みて名ある香木ども多く家蔵ありし、其名ども書たるものは今も世に残れり、