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六国五味伝
六国列香弁
伽羅 羅国 真南賀 真南蛮 寸門陀羅
佐曾羅右是お六国の列といふ、六品何れも沈水香也、伽羅は六種の内上品のもの也、しかれども伽羅、真南蛮におとり、寸門多羅の伽羅にまがふの聞あり、外も又かくのごとし、其品々おわかち知ること師説お受べし、一種聞お修練すべし、其功に随て丈夫に是お定むべし、六種の品おわかち知ること、大略左にあらはすお以て知るべし、其分如左、
伽羅 其さまやさしく、位有て苦みお主る、上品とす、自然とたおやかにして優美なり、其品たとへば宮人のごとし、
羅国 自然に匂ひするどなり、白檀のごとき匂ひ有て、苦みお主る、たとへば武士のごとし、真南賀 匂ひかろく艶なり、早く香のうするお上品とす、匂に曲あり、たとへば女のうち恨みたるがごとし、
真南蛮 味甘お主るもの多し、銀葉に油多く出ること、真南蛮の印とす、然れども外の列にも有也、師説受べし、真南蛮の品は、伽羅お初め其余の列よりも賤し、たとへば民百姓のごとし、寸門多羅 前後に自然と酸きことお主る、伽羅にまがふの聞あり、然れども位うすくして賤き也、其品たとへば地下の衣冠お粧たるがごとし、
佐曾羅 匂ひかヽかにして酸し、上品は炷出し、伽羅にまがふ也、自然にかろく余香に替れり、其品たとへば僧のごとし、右是おもて六国のことおしるべし、難有筆紙口伝、
五味之伝
甘 浅間、先鉾、 苦 面白、志、 辛 薫風、孟荀、 酸 京極、赤栴檀、 鹹 白鷺、遠里、
右五味の香一味立にして、其手本香とするの名香也、以て五味のことお知るべし、此外五味の香あれども、此十種のみ用ること深き子細あり、五味お知ること、初心の人は物にたぐへて知るべし、其分ち左のごとし、
甘は 蜜お練る甘きにたぐふべし
苦は 黄柏のにがきにたぐふべし
辛は 丁子辛にたぐふべし
酸は 梅のすきにたぐふべし
鹹 は あせ取のしおはゆきにたぐふべし
右五品おものにたぐへて、大やうお知るべし、尚師説お受べし、〈○中略〉
新古之弁香の新古おふかつこ卜、当時の人新渡お以て新しとし、昔渡りお以て古とす、又匂の甚しきお新とし、匂の遅きお古とす、新古は其ことにあらず、昔渡りに新あり、新渡りに古きあり、古きは其元お去るお雲、新は其元お不去して残るお新とす、筆紙にあらはしがたし、口傅、