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香道千代の秋

六国香並五味之事
近世六国の香とて、六品の建の香ありとてもてはやす、古来聞ざる事也、古の書にはかつてなし、按に、米川氏の比より此名目おこると見えたり、むかしはたゞ木所とて、加羅(きやら)、羅国(らこく)、具那賀(なか)、真那斑(まなばん)の四おのせたり、其余赤栴檀の事見えたり、佐尊羅(さそら)、寸門多羅(すもたら)の説なし、中比より此二つお加て、六国と名目おたてはじめたり、其物お試に、佐尊羅、寸門多羅、ともに一種の香なり、六種品異なり、六種の香と雲は異儀なし、六国と雲時は、其国より其木出ると雲事、たしかに弁がたし、中古の宗匠、其国よりたしかに伝るといふものありて、定置しやしらず、しかれども羅国、満刺加(まなか)、蘇門答剌(すもたら)、加羅の四国は、もろこしの書に侍る、さそら、まなばんの二国、いまだ考ず、万国の図中にある仙労冷祖おさそらとし、馬拏莫大巴おまなばんと梵語にては通ずるよし雲ども、未たしかなる書におひて考ず、追て考しるすべし、此六種の香まじはり出るにより、此建およく伝授し聞覚ゆる時は、香お聞時迷なくて、百発百中なるべし、