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後伏見院宸翰薫物方
薫物秘方
黒方 沈〈八両重し〉 丁子〈三両頗重し〉 貝〈一両二分軽し〉 白且〈二分軽し〉 薫陸〈二分頗軽し、自白且は重し〉
雁香〈一両殊重し〉 以上上方
沈〈六両〉 丁子〈二雨一分〉 貝〈一雨二朱〉 白且〈一分二朱〉 薫陸〈一分二朱〉 麝香〈二分二朱〉 以上中
沈〈四両〉 丁子〈一両二分〉 貝〈三分〉 白且〈一分〉 薫陸〈一分〉 雁香〈二分〉
射香半分散おもてあはせ、半分あまづらに合て後是おさす、又諸香のかろさ重さの用心、かみになづらへて心えべし、凡黒方四季に通用す、尋常ながらに隻此方お用る也、他方は其時にあらざれば、あながちに用ざる也、
合次第、手ばこのふたにうすやうおしきて、其上に沈お置てかきひろげて、雉子のはねお持て格子のごとく是おわかつ、其上に間ごとにあまねく丁子おわかち、置終りて能々かき合す、和合の様、以下准之、中より分て二になして是お置て、そのなからおかきひろげて、雁香半分あへてかき合せて暫置て、射香に合せざるかたほし、暫置て混合せず、又別所に貝香お置て、其上に白且お置て、かき合せて暫置て、次麝香にあはせ、さるかたの沈おかきひろげて、其上に件の貝香等おわかちおく、かき合せ終りて、又はじめのごとくかきひろげて、射香にあはする方の丁子沈お其上にわかち置て、能々和合する也、次にあはせふるひ二度、其後一宿お経て、その香互にそむおよしとす、しかうしてのちあまづらに和す、是秘伝也、急ぐ時かならずしもしからずといへり、
又雲、大一剤といへども、小目上かけわかちて是お合、有便よく和合する也、あまづらに和する時、おほかるといへども、わづらひなきなり、凡香わする時、一番の香におく香は、焼時その香最末に出くる也、最末におく香は、たく時其香最前に出来るによて、能香おもて前後に是おおく、貝薫陸のたぐひ、中間に是おまじふ、その香あながちにいださざらんが為なり、是甚深の秘説なり、
梅花方 沈〈二両二朱重し〉 丁子〈一両重し〉 貝〈二分軽し〉 白且〈二朱軽し〉 薫陸〈二朱重し〉 甘松〈一分〉 射香〈三分重し〉 合する次第黒方におなじ、射香に合する方に、甘松おあはする也侍従荷葉させる秘方なし、隻諸家の方お持てはからひて合す、
諸香増減用心
沈香に随ひて、他物聊増減の用心有べし、但其沈にむかはずば、かねて其程お定がたし、よくかきわけまじふべき也、沈のかも一様にあらざるなり、その香つらなれば、余香いさゝかさしそふ也、浅香のごとくその香すくなくば、他の香おおの〳〵減ずべきなり、凡貝はくさしといへども、是おくはへずば、其香遠く匂ふべからず、薫陸其用なしといへども、是おくはへずば、其かものにそまざるなり、