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むくさのたね
たきものゝ方さま〴〵なれど、つねにあはするは六種なり、〈梅花、荷葉、菊花、落葉、侍従、黒方、〉梅花は春のむめのなつかしき香にかよへり、荷葉はなつのはちすのすゞしき香にかよへり、菊花は秋のきくの身にしむ香にかよへり、落葉はふゆの木のはのちるころ、はら〳〵とにほひくるにかよへり、時にしたがひて、昔の人はあはせけれど、今の世にはさしもみえずなり行や、ものゝおとろふるなりけり、そのおり〳〵にあはせずとも、おなじことよなどいふは、世のすえの人のこゝうなめり、侍従は乙侍従といふ女房のあはせそめぬれば、其名およぶといへり、山田の尼おはじめは侍従といへるゆへ、此尼のあはせそめしともいへり、いづれにてもその袖の香も、おぼゆばかりのにほひなり、黒方はたきものゝにほひにては、玄の玄といふ心にて名づけたるお、くろぼうとかながきに書けるお、後の人あやまりて、黒方とかくといへり、あやまりおあらためず、その字お書もはゞかりある心に例あれば、かみのその字おかく也、侍従黒方このふた種は、霜雪のころさむきにあはせよとつたへたり、是は人のつたへもうけず、ふるふみにかきおきしおもみず、としどしあはせこゝろみてかくなしおきしお、人のみせよといふに、あらためて序代おのぶ、
梅花〈沈香〉〈五両〉〈丁子〉〈一両〉貝香〈一両○貝〉〈香即甲香〉〈甘松〉〈二分〉〈麝香〉〈二分〉 荷葉〈沈香〉〈七両二分〉〈丁子〉〈二両二分〉〈白檀〉〈一分三朱〉〈貝香〉〈二両二分〉〈甘松〉〈二分〉〈藿香〉〈二分〉〈安息香〉〈一分〉〈鬱金〉〈三分〉 菊花〈沈香〉〈二両〉〈丁子〉〈一両〉〈貝香〉〈二分〉〈甘松〉〈三朱〉〈薫陸〉〈三朱〉〈麝香〉〈一分〉
きくの花のいかにもかうばしきお取て、うすやうの下にきくおしきて、その上にてかうぐおかさねて、すぐにつゝみて、五日お経て、そのはなお撤して、烏鷺おあはせ蜜おあはするなり、
落葉〈沈香〉〈四両二分〉〈丁子〉〈一両二分〉〈貝香〉〈二両二分〉〈甘松〉〈一分〉〈薫陸〉〈一分〉〈爵香〉〈二分〉 侍従〈沈香〉〈四両〉〈丁子〉〈二両〉〈貝香〉〈一両〉〈甘松〉〈一分二朱〉〈占唐〉〈一分二朱○占唐詹糖借字〉 黒方〈洗香〉〈五両〉〈丁子〉〈二両〉〈貝香〉〈一両〉〈白檀〉〈三分〉〈薫陸〉〈三分〉〈麝香〉〈二分〉