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源氏物語
三十二/梅枝
正月のつごもりなれば、おほやけわたくしのどやかなる比ほひに、焼物合給ふ、〈○中略〉かうどもは昔今のとりならべさせ給て、御かた〴〵にくばり奉らせ給、ふたくさづゝあはせさせ給へと、きこえさせたまへり、おくり物、上達部のろくなど世になきさまに、内にもとにも、しげくいとなみ給ふにそへて、かた〴〵にえりとゝのへて、かなうすの音みゝかしましきころなり、おとゞはしん殿にはなれおはしまして、ぞうわ〈○承和〉の御いましめのふたつのほうお、いかでか御みゝにはつたへ給ひけん、心にしめて合給ふ、うへはひんがしのなかのはなちいでに、御しつらひことにふかうしなさせ給ふて、八条の式部卿の御ほうおつたへて、かたみにいどみあはせ給ふほど、いみじうひし給へば、にほひのふかさあさゝも、勝負のさだめあるべしと、おとゞのの給ふ、人の御おやけなき御あらそひごゝろなり、〈○中略〉前斎院よりとて、ちりすぎたる梅の枝に付たる御ふみもて参れり、〈○中略〉ちんのはこに、るりのつき、ふたつすへて、おほきにまろかしつついれ給へり、心ばこんるりには五葉の枝、しろきには梅おえりて、おなじくひきむすびたる、いとのさまも、なよびかになまめかしうぞし給へる、〈○中略〉人々の心々に合給つる、ふかさあさゝおかぎあはせ給へるに、いとけうあることおほかり、