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名香合別記
兼而日限人数お相定、十人或は七八人にすべし、〈但人数丁にする事宜からん歟〉出香十番二十組ならば、人数十人の時は二種宛持参すなり、番数お人数に割合せ、出香二種三種づゝもあるべし、六十一種の名香おもひよりに出すべし、しかれども法隆寺、東大寺は出さゞる事なり、持参の香各香畳に入る、但蘆手書はなし、香箸短尺は例のごとし、銀葉はいれず、〈香畳の図は、泉殿作銘香合の奥に有、援に略、〉床掛物前には置物なし、軸本に文台に料紙硯箱違棚無之ば、厨子又は志野棚にても出してよろし、乱箱内飾は奥に図之、〈○図略〉客へ出す料紙は、短尺は重硯の上に置、文鎮置べし、料紙ならば客とりて、二条家詠草紙のごとく、ちうにて四折にすべし、厨子用ゆるときは、袋のうちに鳥子十八切にし、小包紙三十枚ばかり折らずして入置、木香箸お上に置なり、下明たる所に四方盆おく、地敷紙はなし、長盆も入合すべし、〈但入用は、右之通なれども、飾方は棚により色々あるべし、〉
当日客連座の後、亭主長盆おろし床前に置、客持参の香畳より出し、右の長盆の下座の方へ載退、次の人上客の香おかみへくり上、盆の下座へ我香お載退、次第に右のごとくくり上、亭主我香も載せ、右の長盆お持、香本の座に著き、扠文台お筆者お乞、筆者執筆の座につく、亭主棚の四方盆お取、袋の小包紙取出し、長盆の前におき居る、扠筆者より硯箱の蓋お香本え渡す、香本長盆の香お取、四方盆にある新敷小包に入かへ、たつ四つ折にして、したしの小包お添、硯蓋に載せ、筆者へわたす、執筆請とりてすみに香銘香主お小く書、如例小く折て、常の通四折上下ともおりて、文台の上におく、一種づゝ如此、皆すみて小包一緒にして硯蓋にのせ、香本えわたす、古き包は文台の上に置て、跡にて乱座の上古包紙それ〴〵へ返すなり、香本は小包打交〈長盆にても、四方盆にても、〉盆にならべ、香本の座の向に置く、但貴人あらば、貴人えは四方盆可用、左なくば盆壱枚は勝手へ持入べし、火取香炉に火お取出て、いつもの所におき、重硯おとり、上客へ料紙とも持参し渡す、但是はまへにしてもよろし、立帰り座に付、香炉灰調、はじめに奉書四つ折にして懐中し、此時出し、此上にて灰調と〈但奉書、是はなくても可宜、〉扠建出す、〈火箸香箸〉計畳へはかさゝす、灰調て後、乱箱へ建戻してもよし、又其儘置てもよろし、懐中帛取真に畳み、香炉ふき、跡は腰にさげる、常の通銀葉箱出し、盆にならべある香の小包の上に各銀葉お置き、筥のふた計乱筥へ返し、身は折居の座におく、若火つよきときは、銀葉二枚も重ぬべきため也、扠香本懐中、香畳にさし込有短尺のごときもの一枚出しひろげ、常出香の座におき、一礼して香元執筆とも安座し、炷出す小包紙右の方〈え〉除置き次おたき、前後違はぬ様に二枚重ねたゝみ、折居へ入れ筆者へ渡す、折居は乱筥におき、此時取出し、小包明たるお二枚違はぬやうに重ね、此折居へ入れわたすことなり、
香炉戻しは、香お右短尺のごときものゝ上におき、次炷出す、次に右の通香二炷にて包紙二枚たたみ、折居へいるゝ事なり、〈但多人数ならば折居不用、小包二枚々々重ね執筆へ渡す、執筆直に記錄へ写す、〉
客は初に聞の下書いだしおき、一度々、々に我おもふ方へ点かくべし、左右同じ様におもはゞ持と書べし、各済て筆者より硯ふた出す、銘々聞お此ふたに載せ、重硯とも次々〈え〉廻す事常のごとし、香本はたきから入建香炉お乱筥へおさめ、一礼して仕舞なり、
執筆は記錄に認、連衆へ廻し、まわり返れば文台におき、扠判者の前〈え〉持参すべし、文台の上には奉書延し置、其上に記錄お載せ出す、判者請取文台は筆者へ返し、乱座になり、其上にて判お認るも有、翌日にも認、判者右の奉書に記錄の順おうつし、夫に判お書也、又乱座の後判者お上座にして、連座左右へ二行に居、第一の香主より懐中香畳の短尺一枚出し、判お書給へといふ心にて出す、各如斯、判者請取置、あとにて其儘返すなり、短尺出す事古実なり、〈殿記に畳、此短尺等寸法有、〉勝手に大火鉢に埋火置、能時分炭団おおこし、香炉の火お取替べし、
後の香合に百廿種弐百種の香も被出たり、六十種におとらぬもあれば面白式なり、本書にて考べし、