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春湊浪話

伽羅
香合おなす式は、左右お分て焼出し、其判おなして勝負お付る事、歌合の例の如し、文亀のはじめ志野宗信が家にて香合おす、其判のことばは、消遥院のおとゞ書せ給ふ、又其焼出す式は、邦尊親王の五月雨の記にくわしくみえたる事なるに、いつよりか其式はすたれて、今は回茶貢茶の式のごとくなして、伽羅お焼出し勝負おあらそふ、是お十炷香といふ、其上にさま〴〵の作り物おこしらへ調じて、盤上に並べ立て盤香といふ〈名所香、矢数香、競馬香などいふ類なり、〉ことなど出来て、専ら世に玩ぶことにて、今はおさなきものゝ其式お知事なれば委くは書ず、再びこの式お茶にもうつし学ぶこと有といへども、昔の十服茶などいふ式のごときにはあらず、